医事法学
2008年 08月 26日
医療事故によって患者が死亡したといった場合、医療側に「過失」があれば、「医療過誤」として、民事上の損害賠償のほか、刑事上の処罰が科される場合もあります。しかし、専門的な医療行為の場面では、「過失」があるかどうか、あったとしても、民事上の過失を越えて刑事上の過失に当たるかどうかは、法律家(裁判官)として判断が困難な場合が少なくありません。
たとえば、横浜市大病院患者取り違え事件のように、手術すべき患者を取り違えたといった単純で明白なミスの場合はまだ分かりやすいのですが(その場合でも責任を負うのは看護師か担当医師か、その両方かいった問題があります)、最近の福島県立大野病院の帝王切開事件のように、医師の手術時の判断に過失があるかどうかは、医療の専門分野にかかわる問題なので、判断が困難で結論が分かれる可能性があります(1審判決は無罪でした)。
そこで、第3者の専門家からなる「医療安全調査委員会」でまず事実を調査した後、悪質で無謀なケースだけを刑事手続に乗せるという趣旨の提案が動き出しています。私見もその方向に賛成ですが、しかし、そのためには、医療集団の「自律」を保障し得るような組織改革(たとえば、医師会への強制加入制度や懲戒制度の整備)のほか、法律家の側にも検察官の起訴裁量権の限定や、民事・行政上の処理の選択肢の拡大などを、国民の合意に乗せるための周到な準備作業が必要だと思われます。

