責任無能力者の故意
2008年 07月 27日
心身喪失者等医療観察法は、心身喪失等の状態で、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害といった重大な他害行為(「対象行為」)を行った者に適用されることになっていますが、行為者が幻聴妄想等に基づいてこれらの行為を行ったときは、自分がやったといわれる行為については何も憶えていないとか、場合によっては、自分の身に降りかかる侵害を払いのけるためにやったと思い込んでいるような場合があり得ます。
これらの場合には、行為者には責任能力がないので刑罰は科されませんが、そのまま医療観察法上の「対象行為」があったと判断してのよいのかという問題が生じます。
従来は、行為者が現にこれらの重大な他害行為を実際におこなっているのだから、それだけで「対象行為」があったと判断して、医療観本法による指定入院機関への入院や通院等の処分をすることが可能だと考えられてきたといってよいでしょう。
しかし、これらの罪はすべて「故意犯」ですから、行為者が事実を認識していなければ「対象行為」があったとは判断できないのではないかという主張が出されました。
そこで、最近の最高裁判例(最決平20・6.18)は、行為者が幻聴・妄想によって認識した内容ではなく、外部的行為を客観的に考察し、心身喪失等の状態にない一般の者による認識を基準として判断すれば、「対象行為」の存在を認定できると判断したのです。
その結論自体は妥当としましても、「責任無能力者の故意」を一般人を基準として認めることには疑問があるというべきでしょう。詳しくは、判例批評で扱うことにします。

