佐伯千仭著『刑法総論』(昭和19年)
2008年 01月 11日
しかし、佐伯先生は、すでに戦前末期に『刑法総論』(昭和19年、弘文堂書房)という刑法の体系書(400頁を越える大著)を公刊されていたのです。それは、戦争中、しかも敗戦の一年前の時期であり、よく出版できたのだと思われます。
ところが、この著書には、曰く因縁があって、戦後もほとんど出まわらず、「幻の書」ともいわれていました。その最大の理由は、実はこの著書の一部が戦後の教職員適格審査委員会で問題となり、その結果として、佐伯先生は京都大学教授の地位を追われることになったという点にあります。その詳しい経緯は一種のタブーとなり、以後この著書にも封印が付せられた感があったのです。
先に「瀧川事件の後遺症」(ブログ2007年4月)でも触れましたように、松尾尊兊著『滝川事件』(岩波現代文庫、2005年)の中でも、佐伯教授の追放理由である「極端なる国家主義」の根拠としてこの『刑法総論』があげられていました。
そんなわけで、私としては、まずはこの昭和19年の『刑法総論』を入手したかったのですが、最近ようやく友人の中川さんから本書を拝借することができ、一種の感慨をもってこの貴重な書物を手にとって見ることができるようになりました。
本書を含めて佐伯先生の戦前の業績を辿ることが、私のこれからの課題ですが、私とほぼ同世代の友人でもある松尾氏などとも協力しながら、タブーとされてきた佐伯追放劇の歴史的な経緯と真相を少しでも明らかにする努力をしたいと考えています。