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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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戦後変革の不徹底

 最近、刑法改正の歴史を調べているうちに、戦前の思想検事が戦後出世して法務省刑事局長から最高検検事となり刑法改正準備会の会長にもなった人物がいるという事実を改めて知る機会がありました(戒能通孝「基本法改正の態度として」法律時報32巻8号、昭35)。戒能教授は、思想検事が立身し、刑法改正準備会の責任者になり得たこと自体に問題があるとしとして、刑法をもし戦時中の刑法から脱却させようというのであれば、準備委員に政治刑法の被害者を加えるのが当然であったのに、委員にはただの一人も入っていないという事実を指摘されていたのです。 
 私も、戦後の変革がいかに不徹底であったか、なぜ不徹底に終わったかを、各分野ごとに事実に基づいて明らかにしておくことが、「戦前に帰ってはならない」という切実な願いを実現して行くために、今なお必要であることを痛感しています。
 なお、上記の論文の中に、この検事が戦前、美濃部亮吉氏を治安維持法違反の疑いで取り調べたときの様子が記されていますので、その部分を引用しておきます。
 「井本台吉という検事が取り調べに来た。その調べ方のいやらしさは、いま思い出しても気持が悪くなる。とにかく治安維持法に違反するようにいわない限り絶対に供述書を作らない。彼の意思に沿った答弁をしない限り、よく考えておけといって、2週間でも3週間でも放っておかれる。彼によれば、赤字公債を発行するとインフレーションになると書いた私の論文は、日本の戦費調達を困難に導き、ひいては―警察や検事局はこの言葉が好きだった―蒋介石に対する利敵行為になるというのだから、全くあきれてしまう。この井本台吉という検事は戦後出世して、いまは最高検の部長をしているということである。まことに恐ろしいことである」。
by nakayama_kenichi | 2007-04-24 15:13