心神喪失者等医療観察法の1年
2007年 01月 21日
第1は、法務省の中でも、刑事局の論者は、本法による医療が精神保健福祉法上の処遇(措置入院や医療保護入院)に優先するという権威的な立場を固執するのに対して、保護局の論者は、むしろ両者の並立関係を認めるという柔軟な立場にあると思われる点です。ここでは、何よりも対象者の社会復帰にとって最適な医療は何かという観点が必要だというべきでしょう。
第2は、最高裁の論者が審判手続の運用として、裁判所が審判に当たって、関係者との間に打ち合わせを行い、その場に鑑定人の出席を求め、検察官、付添人等の関係者の問題意識に応えた鑑定を実施することができることを明言している点です。このような姿勢も対象者の社会復帰を念頭においた柔軟な運用方法として評価されてよいでしょう。
第3は、厚生労働省の論者が本法による医療について、一方ではそれが一般の精神医療と同様であるとしながらも、しかし他方で「手厚い医療」には「リスクアセスメント」が加わると指摘している点です。このような論調は、「再犯防止」のための「司法精神医学」の開発につながる危険があることを十分に警戒する必要があります。
第4は、この特集には、なぜか「付添人」(弁護士)の論稿が最初から欠けており、そのために、「入院」(56%)と比較して「通院」(25%)の比率がなぜかなり高いのか、審判結果の地域差が何に由来するのかといった興味のある問題点への論及が全く欠落してしまっていることです。そしてさらに、不起訴になった者のほかに、いったん刑事手続に付されて無罪となった者、まして有罪で執行猶予になった者が、なぜ本法の対象とされて「鑑定入院」や「入院」という身柄拘束を受けなければならないのかという本質的な問題も全く論じられていません。これらは、5年後の見直しを含めた立法問題としても、もっと真剣に検討する必要があるというべきでしょう。

