心神喪失者等医療観察法の1年
2006年 11月 29日
本法の成立(2005年7月15日)によって、精神障害により心神喪失または心神耗弱の状態で重大な他害行為を行ったが、不起訴、無罪、執行猶予になった対象者に対して、裁判所の関与のもとで、医療および観察をする新しい制度が創設されましたが、1年の経過の中から、いろいろな問題が出てきていますので、そのいくつかをあげておきます。
まず、本法による申立件数は、全国で計355件(終局件数293件)で、そのうち裁判所による入院決定が160件(56.6%)、通院決定が73件(24.9%)、不処遇決定(治療の必要なし)が49件(16.9%)、却下決定(対象行為なし、責任能力あり)が10件(3.4%)となっています。ここからは、入院決定に対して通院決定や不処遇決定がかなり多いことがうかがわれますが、申立件数も入院率も府県によってかなりのばらつきがありますので、その要因を事例ごとに分析する必要が大きいことが示唆されています。因みに、入院医療機関はまだ8ヶ所、184床にとどまり、ほぼ満床に近づいています。
次に、申立は不起訴事例が圧倒的に多いのですが、いったん刑事裁判を経て、無罪または執行猶予になった者にも本法の申立による身柄拘束が二重に及ぶという問題が表面化しています。これは、検察官の申立にかかわる重要な検討課題を示唆しています。
一方、本法の性格が医療法であること、したがって鑑定入院期間(2ヶ月)中も医療が必要であることについてはおおむね諒解されつつありますが、この期間における関係者(精神科医、社会復帰調整官、付添人)の協力の必要性を強調しなければなりません。
最後に、退院請求も出はじめていますが、本法には手続規定がないために不都合が生じています。この点は、各段階での救済や補償制度の不備とともに、改善が要請されるところです。
なお、以上は、私自身も参加している日弁連の刑事法制委員会の医療観察法部会の論議の中からピックアップしたものであることを付記しておきます。

