西原春夫著『日本の進路、アジアの将来』
2006年 11月 02日
最初は、とりあえずお礼状を書くために終わりの方から拾い読みをしましたが、やめられずに最初から全部を読むことになりました。著者の描く世界にいつの間にか引きずり込まれ、次を読み結論を知りたいという欲求に駆り立てられるところに、本書の魅力があることを痛感しました。
多くのことが書いてありますが、著者がいいたいのは、1945年の敗戦によって価値の大転換があり、平和憲法が出来たにもかかわず、なぜ世界有数の戦力を保持した自衛隊が生まれ、憲法改正の動きが加速されているのかという反省から、消極型平和国家の理念だけではなく、これに加えて積極的に世界の平和構築に貢献する国になることが必要であり、その方法は、「覇権を求めることなく、武力によることもなく、国家間の利害を調整し、積極的に平和に貢献する」とい21世紀的国家観によって、近隣のアジア諸国との関係を改善し連携していくことにあるというのです。そこには、長年にわたって中国との交流を進めてきた著者の実践的な感覚から生まれた自信と、未来への歴史予測が存在しています。
そのほか、日本、中国、韓国には「儒教」という共通の伝統道徳があるという指摘や、法と道徳との関係を再検討し、とくに「欲望の制御原理」を検討すべきであるといった提言には、耳を傾ける必要があると感じました。
私は、刑法理論についても、西原さんと必ずしも意見が一致しませんが、その独特の「中庸性」のメリットが本書では遺憾なく発揮されていると思います。一読を薦めたいものです(講談社、2006年)。