帝国議会における論議
2006年 10月 29日
このうち、公務執行妨害罪については、戦後の草案でも罰金刑になじまないとして一切認めてこなかったのですが、実は戦前の帝国議会で罰金刑を加えるという議員提案がなされていたという事実があります。当時の政府はこれに反対したのですが、提出者側の議員は、この改正案が刑罰の下の方の範囲を広めて選択の幅を広めたに過ぎないのであって、決して厳罰に処することを妨げないのであるから、政府の反対には理由がないと主張した上で、当面は業務上横領罪の法定刑の改正(1年以上10年以下を10年以下とする)が重要であるとして、この提案は削除したいうのです(石川・岩村「法制審議会刑事法部会財産刑小委員会における議論の経過と問題点」自由と正義46巻1号59頁)。
問題は、このような提案がなされた1921年が、いわゆる大正デモクラシーの時代にあたっており、こうした時期に公務執行妨害罪の改正案が帝国議会に提出されたことの意味は、実に興味深いものがあると評価されている点にあります。それは、国民の民主主義意識、運動の伸張を背景としてなされたものであり、公務執行妨害罪のありようはその時代の民主主義のありようによっているともいえると評価されています。
このような観点で、今回の改正を見ますと、今日のような時代状況の中で、政府がなぜ公務執行妨害罪に罰金刑を加えることを提案したのかという点とともにと、提案の趣旨が起訴猶予者を罰金刑の対象にすることにあって、自由刑を求める基準には基本的に変わりがないとしている点を再考して見る必要があるように思われます。

