選挙犯罪との再会
2006年 08月 30日
家内が死亡したこともあり、この件についてもそのままになっていたのですが、8月も終りに近づき、少しばかり涼しくなってきましたので、あらためて検討を開始しました。
第1審判決(大分地判平成18年1月12日)は、公訴権濫用に当たるのではないか、憲法並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約に違反するのではないか、構成要件に該当しないのではないか、とする弁護人の主張に沿って一応の検討を加えていますが、最初に結論ありきという形で、淡々と有罪判決を下しています。そこには、独自の考察をほどこした跡は全く見られず、これまでの最高裁判所の判例の枠内で形式的に処理し、国際規約による新しい問題提起にも前向きの対応は見られません。
ところが、弁護人側の大部な控訴趣意書を読みますと、そこにはこの問題をめぐるきわめて詳細な分析が加えられており、公選法上の戸別訪問罪などに関する立法、判例、学説の歴史的な検討のほか、とくに国際人権規約にかかわる新しい問題提起が含まれていて、大変啓発されました。
かくいう私も、かつて『選挙犯罪の諸問題』と題する書物(成分堂1985年)を刊行したことがあり、そこで戸別訪問・文書違反罪の検討を試みたことがあります。20年も前の自分の仕事を振り返って、あらためてこの問題の検討を継続する必要性を痛感しているところです。
ここでひとつだけいうとしますと、戸別訪問などの選挙運動を罪悪視するのは日本だけで、西欧諸国にはこのような規制はないということです。ここでも日本法の「国際水準」があらためて問われているのです。なぜそうなのかを、歴史的にも検討する必要があります。戦前の国営選挙(翼賛選挙)の伝統がなお尾を引いているのではなでしょうか。