昔の高等小学読本
2006年 07月 27日
私は昭和2年(1927年)の生まれなので、ちょうどその頃のものですが、一見してその内容が予想以上に程度の高いものであることに驚かされました。たしか戦前は、「尋常高等小学校」と呼ばれていましたので、この本は尋常科6年を終わったあとの高等科2年用のものではないかと思われます。
内容的な面でいいますと、まず第1に、軍国主義とか国粋主義の押し付けといった色合いがほとんど見られないという点が、何よりも注目されるところです。この点は、その後の学校教育のlいちじるしい軍国主義化の傾向と比較してみたとき、特筆されるべきリベラルな性格をもっていたことをうかがわせるものといえるでしょう。第2は、女子用という点とも関連して、廃物利用など生活に役立つ知恵が記されていますが、女子にもっぱら従順な生き方を説くといった女性卑下的な記述は全く見られず、むしろ科学的な合理主義を背景としたきわめて穏健で開明的な文化水準を示していると思われる点です。法律上の契約にも触れて、信義誠実の原則をうたうほか、さらに近代的な統計方法の持つ社会的な意味を評価するなど、専門性への橋渡しも十分に意識されているように思われます。笑い話も間にはさむという余裕が見られる一方で、禅師が悪事を働いた部下の僧侶を追放することなく諭して教化するといった人間的な教育方法にまで言及しているこの教科書は、今でもなお、また今だからこそ、十分に参照されるべき内容を含んでいるように思われるのです。できれば、復刻を期待したいものです。