窃盗にも罰金刑の新設案
2006年 03月 05日
これは、殺人、傷害、強盗、強姦などの法定刑(自由刑)を大幅に引き上げた2005年(平成17年)の改正が「重罰化」といわれたのと比べて、むしろ刑を軽くするものだという印象を受けます。これは自然なことで、当時の新聞にも、軽い刑を新設することで軽微な事件を柔軟に処理しようとするものだという評価が見られました(共同通信2005年10月6日)。 法制審議会刑事法部会の議事録を見ますと、委員(法律専門家)の中にも、そのように考えた人もあったくらいです。
ところが、この案を提案した当局(法務省刑事局)は、このような見方を断固拒否して、この改正は決して刑を軽くするというものでなく、むしろ凶悪重大犯罪のときの国民の規範意識の反映と同様な発想があるのだと繰り返し主張したのです。その秘密は、次のような説明に現われています。
「公務妨害や窃盗について自由刑しかないという現在の実務では、軽い事案では相当程度の割合で起訴猶予(検察官が起訴をしない処分)という形で刑罰が科されないことがあるので、このような場合に罰金という制裁を科すことで対応しようとするものであり、万引きを甘く見るようなスタンスに立っているのではない」というのです。
いわれて見ると、なるほど現状よりも重くする改正だということになりそうです。しかし、軽くなる場合もあることを認めて、過剰収容の状態にある「自由刑」を少しでも少なくし、「罰金刑」を活用しようというリベラルな思想が全くかえりみられないというのは、あまりにも硬直なアプローチではないでしょうか。私は、この問題について、今、論文を書いています。

