ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』
2006年 02月 26日
上下2巻の大作であり、まだ全部を読了していないが、ある所でまとめようとすると、また次の新しい問題が提起されてきて、休むいとまがない。忘れまいとして、赤と黒のボールペンで線を引き、あとでフォローできるように、付箋をつけたら、それが一杯にあふれることになった。
そこには、歴史家としての誠実な学問的対応とともに、何よりもヒューマンでリベラルな思想が一貫しており、権威や公式見解なるものに疑いの目を向けるという批判的精神と民衆に対する暖かい思いやりが横溢していることを実感することができる。
著者によれば、「敗北を抱きしめて」とは、日本は世界に数ある敗北の中でも最も苦しい敗北を経験したけれども、それは同時にまたとない自己変革のチャンスに恵まれたということでもあり、多くの日本人は敗北を抱きしめて、より抑圧の少ない、より戦争の重圧から自由な環境で再出発するための、本来の可能性をもたらしてくれたからであるというのである。
21世紀に、自分たちは何を目標とし、何を理想として抱きしめルべきかと、日本人が自問するとすれば、それはあの恐ろしい戦争のあとの、あの滅多にないほど流動的で、理想に燃えた平和の瞬間であり、それこそ最も重みのある歴史の瞬間として振り返るべきでないかと、著者はわれわれに呼びかけている。
私自身も、敗戦の歴史的瞬間を経験した者として、本書の中から、多くのことを学び取りたいという躍動感を抑えきれないでいる。まだ本書をご存知のない方に、自ら読まれることを心から勧めるとともに、このブログの中でも、その内容を紹介していきたい。

