公務妨害罪と窃盗罪に罰金刑を新設する法案
2005年 11月 29日
第1は、なぜ今、上記の両罪について罰金刑を新設するのかという理由である。それは、たとえば窃盗では、万引きが増えているのに、これをどこまで起訴すべきか悩みがあり、罰金刑がないために起訴猶予にしなければならないという不都合が生じているというのである。それは、起訴猶予事案を罰金にするという点で、「刑罰化」という効果を狙ったものであるといえよう。
第2は、これまでの自由刑としての評価が罰金刑に落とされるという側面が意識的に否定されているという点である。これは、罰金刑が「短期自由刑の弊害」を避けるというリベラルな機能を持つとしてきた近代的な刑事政策論の通説的な考え方がかたくなに拒否されていることを意味する。公務妨害罪でも、これを自由刑として評価してきた基準は変わらないというのである。ここにも、起訴猶予事案の罰金化のみを念頭におくという権威的なかたくなさが現われている。
第3は、窃盗罪の罰金が50万円以下であるのに、公務妨害罪の罰金は30万円以下の罰金として区別されている点である。それは、公務妨害罪には自由刑が相当で、罰金相当事案は少なく狭いからだというのである。しかし、これもかたくなな態度であり、そうなると公務妨害罪の方が業務妨害罪(233条)の法定刑(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)よりも軽いことになって整合性がとれないというジレンマが避けられない。
この問題については、これまでの刑法改正論議における罰金刑拡大の提案を歴史的に踏まえつつ、もっと率直に罰金刑の活用による刑法の「自由化」機能を認めていくべきだと思われる(拙稿「財産刑の適用範囲の拡大について」自由と正義45巻1号28頁、1994年、参照)。

