「狐落とし」治療術と暴行の故意
2005年 11月 23日
「狐落とし」治療術とは、加持祈祷を業とする者が病者についた「狐を落とす」と称して行う迷信的な治療術をいうが、そこで行われた有形力の行使(もむ、さする、おさえる)によって、被害者が傷害を負い、さらに死亡したような場合に、処罰されるとすれば何罪が成立するのかという点が判例上問題になったことがある。
戦前の大審院判決は、これを単純に「業務上過失致死罪」に当たるとしていたが、戦後の下級審判例(東京高判昭31・11・28高刑集9・12・1251)は、これを「傷害致死罪」に当たるとした。その相違は、暴行の故意の成否の判断にあるが、後者の判例では、被告人に暴行の事実の認識がありながら迷信のためにこれを有効な治療行為だと誤信したのは「違法性の錯誤」なので故意を阻却しないとされたのである。
なぜ、突然、この問題をブログで取り上げたのかといえば、この判例については、すでに私自身が昭和32年の若い助手時代に「判例批評」を書いていたことを思い出し(法学論叢63巻4号87頁)、あらためて50年も前の自分の古い文章を読み返すという貴重な機会があったからである。
なお、私の当時の評価は、この判例を疑問とし、被告人には暴行の故意がなく、「業務上過失致死罪」が成立するというものであって、この結論は今も変わっていない。

