新しい本の出版
2005年 11月 11日
本書の「まえがき」にも書きましたように、その内容は、この法案が2002年に国会に上程されてから、第154,155,156国会にまたがり、衆議院、参議院の審議を経て、2003年7月に成立するまでの全期間を通じて、主として法務委員会における質疑の状況を間断なくフォローし、その理解に資するために私自身が必要なコメントを付したものです。本稿の執筆は2002年末から始まり、2003年夏まで継続し、幸いにもその成果は、当時の「判例時報」誌にかなり長期に連載されました(1808号から1860号まで不定期連載)。
この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、継続的かつ適正な医療ならびに観察および指導を行うことによって、その病状の改善およびこれに伴う同様の行為の再発の防止を図ることを目的とするものとされていますが、立法過程では「再犯のおそれ」の要件を削除する「修正案」が通過したという重要な経過があります。そのことが本法の「性格」と施行後の「運用」にどのように反映されて行くのかという点が問われているのです。
本法が予定した指定入院機関のうちわずか2ヶ所しか稼動していない状況の下で、すでに数十件を越える検察官による申立てがあり、裁判所による入院の決定もかなり出ていますので、施設が早晩満杯になることが当然に予測され、通院にともなう受け皿の確保などの困難な問題があるほか、申立てから鑑定入院期間中の「医療」の確保と手続中の人権をいかに保障するのかという課題も山積しています。そして、その際の原則的な処遇の理念や基準を考える際には、本書に示した立法論議が参照されることを願っています。

