平場安治先生と目的的行為論
2005年 07月 20日
平場先生は、刑訴法とともに刑法も教えておられましたが、刑法の主題はもっぱら「目的的行為論」に焦点がおかれていました。それは、戦後にドイツから入ってきたばかりの新鮮な刑法学説で、日本でも、同世代の平野龍一、井上正治教授が好意を示し、次世代の福田平、中義勝教授らもこれに加わるという形で、大きな流れを形成しつつあったということができます。
当時の平場先生の大學院ゼミで印象的だったのは、先生が机の上に、煙草の箱やマッチを並べてこれを動かながら、具体的な例をあげて、ゆっくりと説得的に説明されていくという姿で、院生たちは何かマジックにでもかかったように、その論旨を拝聴するというスタイルが定着していたように思われます。従来の通説がその前提から崩されて、新学説の観点から再構成されていくという構図は、見事なマジックのように見えたのです。私自身は、いくつかの疑問を提起しましたが、平場先生の確信は不動のようでした。
その後、平野説が批判に転ずるとともに、目的的行為論の波も沈静化しましたが、平場先生が最後までその立場を変えることなく、独自の理論体系を主張し続けられたことは、その人間的なあたたかさと広い包容力とともに、今でも弟子たちの心の支えになっています。私も、目的的行為論には組しませんが、関西の伝統ある先生として尊敬しています(平場先生は、2002年6月27日逝去、85歳)。

