another story
2005年 06月 15日
これは、暴力団組員による建造物損壊事件で、3名が共謀共同正犯として起訴され、うち2名は自白して有罪を認めたが、あとひとりの被告人は最後まで争い、いわゆる「共犯者の自白」によって有罪とされたというものである。
この事件には、「共謀共同正犯」の成立要件をめぐる判例の動向を刑法理論上どのように評価すべきかという周知の論争問題がからんでおり、私自身はかなり詳細な判例の分析を試みたのであるが、問題はむしろその前提として、共謀共同正犯の要件に当たると判断されるべき「事実的な前提」が果たして存在したのかという事実認定の判断の仕方にかかっている。
「共犯者の自白」のうち、被告人が実行犯に現場で指示したという供述は信用性なしとして排除されたが、被告人が「共謀」の場に同席していたとする供述の方は信用性があるとした上で、同席していたとすれば会話の内容を聞いたはずだという理由で、被告人に「共謀共同正犯」が認められたのである。しかし、共犯者間の供述が矛盾し、また捜査段階と公判廷での供述が矛盾したときに、そのいずれを採用するのが合理的かは、「別の可能性」(another story)を十分に検討した上で、その合理的な疑いが払拭できない限り、有罪を認定することはできないというべきであろう。組の事件であるという事情もあってか、「別の可能性」があるのに有罪を推定するという傾向があるように思えてならないのである。
なお、この事件については、2005年1月の「刑事判例研究会」で報告したことがある。

