死の定義と臓器移植
2011年 02月 05日
この点で、興味を引くのは、2008年に公表された『生命倫理に関する米大統領評議会白書』(訳書2010年)で、そこでは、この疑問に答えて、「脳死」を「全脳不全」に改め、死の基準として決定的なのは、脳の統合機能の完全な喪失ではなく、全脳不全の状態にある患者は、もはや生きる有機体としての基本的な“仕事”を果たすことができず、自身のために環境に応じて行動する能力や“駆動力”だけでなく、極めて重要な外界に対する“開放性”(openness)を不可逆的に失っている点にあると説明しています。
しかし、このような新しい説明は、患者の死に関する神経学的・病態生理学的基準を超えた「哲学的」、さらには「社会的」レベルの論議ではないのかという疑問があります。また、呼吸や意識ではなく、心停止こそが究極の死の基準だとする伝統的な意見が、この大統領評議会白書にも少数意見として存在することにも注目すべきでしょう。
なお、アメリカの臓器移植は、法律によって、すべてが「脳死ドナー」から行われているものと思っていましたが、実際には「心停止後臓器提供」の例も多いといわれていますので、再検討の必要があります。今、この『白書』の紹介を考えています。