いのちの輝き
2011年 01月 31日
本書は、研究書ではなく、これまでの長い研究生活を背景として、比較的最近に書かれた「随想風」の短編を一冊にまとまられたものです。キリスト教徒としての清廉・潔白さと、人のいのちに対する限りない尊敬と温かい思いやりの精神を体現された人ならではと思わせる著者の面目が謙虚に語られています。
その中から、同感を禁じえないいくつかの指摘を挙げておきたいと思います。
まず、日本の法と道徳の特色に関する部分では、ドイツ人と比べた日本人の「責任」の意識の問題として、ドイツではナチス犯罪に加担した人間の責任を追及するために、現在もまだ有責者の訴追・処罰が行われ、国家も莫大な賠償を続けているにもかかわらず、日本では、国家も国民もすでに戦争責任の意識を失っているのではないかという点です。
また、具体的な例として、日本人は憲法9条を忘れてはならず、日本が取り組むべきは、戦争の準備ではなく、平和を確保し、軍事力によらない国際貢献を果たすことであるとし、死刑には凶悪犯罪を防ぐ特別な効果がないことは刑事学の常識であり、死は償いにはならない無益で残虐な野蛮行為だから廃止すべきであると明言され、「日の丸、君が代」も強制することは人間の尊厳に反するといわれています。
とくに、読者の心を打つのは、著者が、ある死刑囚の洗礼の代父となり、処刑の日まで長い付き合いをされたという出会いの体験談です。そして、これが死刑廃止論の実践的な裏づけになっていることを知って、その確信の深さを痛感しました。