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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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常習累犯窃盗

 11月12日の朝日新聞夕刊は、「重大犯罪再犯率3割」と伝え、法務省が公表した出所後10年間の調査結果を明らかにしています。強盗、強姦、放火、殺人などの重大犯罪について出所後の再犯率が増えているというのです。その再犯率が、反省も深く身元引受人もいる「仮釈放」者に比べて、満期で出所した人の方が高いという事実は、刑務所への収容が再犯防止に役立たないだけでなく、出所後の「環境」こそが「更生」(社会復帰)を支える要因であることを示しているといってよいでしょう。
 この点で、ある弁護士が体験した「常習累犯窃盗」の事案は、現状の深刻さをもっと具体的な形で示していますので、その内容を紹介しておきます(法学セミナー2010年10月号)。それは、「常習累犯窃盗」(過去10年間に3回以上6ヶ月以上の懲役刑を受けている人が、常習として窃盗を犯した場合で、一般の窃盗罪よりもはるかに重く処罰される)に問われて、刑務所を出所したKさんが、所持金7千円しかなく、転々として再び車上荒らし(車の中の小銭等の窃盗)で捕まり、その弁護を引き受けた弁護士が、出所後の身元引受人になるという実話です。
 問題は、著者が指摘する「更生保護」のための社会的コストに関する指摘です。わずか数百円の鞄を盗んだKさんの逮捕から捜査、裁判、行刑までに要する総費用のコストは千数百万円に及ぶことになるが、出所後の生活や就労の支援をする「専門家」がついていたとしたら、はるかに社会的コストが少なくてすむのではないかといわれるのです。
 現状は、これに反して、過剰な「刑務所」が軽い罪を繰り返す高齢者や障碍者の最後の「福祉施設」になってしまっているという皮肉な状態にあることを認識しなければなりません。名ばかりになっている「更生」保護事業にこそ、国はもっと人的な財源を当てるべきでしょう。著者は、「更生」が社会の幸せの総和を増やすことだと強調されています。
by nakayama_kenichi | 2010-11-16 10:15