常習累犯窃盗
2010年 11月 16日
この点で、ある弁護士が体験した「常習累犯窃盗」の事案は、現状の深刻さをもっと具体的な形で示していますので、その内容を紹介しておきます(法学セミナー2010年10月号)。それは、「常習累犯窃盗」(過去10年間に3回以上6ヶ月以上の懲役刑を受けている人が、常習として窃盗を犯した場合で、一般の窃盗罪よりもはるかに重く処罰される)に問われて、刑務所を出所したKさんが、所持金7千円しかなく、転々として再び車上荒らし(車の中の小銭等の窃盗)で捕まり、その弁護を引き受けた弁護士が、出所後の身元引受人になるという実話です。
問題は、著者が指摘する「更生保護」のための社会的コストに関する指摘です。わずか数百円の鞄を盗んだKさんの逮捕から捜査、裁判、行刑までに要する総費用のコストは千数百万円に及ぶことになるが、出所後の生活や就労の支援をする「専門家」がついていたとしたら、はるかに社会的コストが少なくてすむのではないかといわれるのです。
現状は、これに反して、過剰な「刑務所」が軽い罪を繰り返す高齢者や障碍者の最後の「福祉施設」になってしまっているという皮肉な状態にあることを認識しなければなりません。名ばかりになっている「更生」保護事業にこそ、国はもっと人的な財源を当てるべきでしょう。著者は、「更生」が社会の幸せの総和を増やすことだと強調されています。