死刑判決の破棄差し戻し(2)
2010年 10月 24日
第1に、原審が、本件灰皿内に遺留されていたたばこの吸殻に付着していた唾液中の細胞のDNAが被告人のそれと一致したという点から、被告人が本件事件当日に同マンションに赴いた事実を強く推認できるとした点については、被告人が1審段階から、自分が息子夫婦に自分が使用していた携帯灰皿を渡したことがあり、息子の妻がそれを本件灰皿に捨てた可能性があると具体的に反論をしているのに、この点に関する審理が尽くされていない。
第2に、仮に被告人が事件当日に本件マンションに赴いた事実が認められたとしても、その他の間接事実を加えることによって、「被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明できない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が存在する」とまでいえるかには疑問がある。被告人の動機などを含めて、その他の指摘されている間接事実ではその論証ができていない。
この判決には、3名の補足意見と1名の反対意見がついており、多数意見形成の過程が極めて詳細に論述されていますので、別途のくわしい検討を要しますが、ここでは最高裁が、間接事実による「合理的な疑いのない証明」の内容と程度に関して、「被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明できない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が存在する」ことを要するとした点に注目する必要があります。それは、「被告人が犯人であるとしたならば全てが矛盾なく説明できる」という「総合評価論」を完全に否定しただけではなく、むしろ犯人であることを積極的に推認させる事実を要求した点で、「画期的な判決」として、内外に広めて行く必要があることを痛感しました。この事件の今後の審理の帰趨が注目されます。

