死刑囚物語
2010年 05月 31日
石川弁護士の先輩で最近亡くなられ樋口氏がその死刑事件の1審判決を書いた裁判官の1人で、石川弁護士も取材を受けたとのことですが、番組の主役は、1審で死刑を求刑した元検事(現在は大学教授)として著明な土本武司氏でした。
住宅街で起きた強盗殺人事件で起訴された長谷川被告が、土本検事から死刑を求刑されてから、1審、2審と最高裁の審理で死刑が確定し、死刑囚として拘置所に収容され、死刑が執行されるまでの44年間にわたって、土本捜査検事自身に宛てて書き綴った9通の手紙の内容が公開され、土本武司氏が長谷川死刑囚の心情に深い人間的な思いを馳せ、あらためて死刑制度とその執行の現実を考え直すという重い体験を吐露されるというのが物語の筋書きです。
この番組では、とくに死刑の執行現場がイラスト入りですが画像化され、土本氏自身が他の死刑囚の執行に立ち会ったときの体験がそのときの特異な雰囲気とともに再現されている点が印象に残りました。また、当の事件の捜査検事でさえも、かつての事件の審理やその後の死刑執行までの情報にアクセスすることが、きわめて困難であるといわれた点も、わが国における死刑関連事件の情報公開が全く進んでいないことを、改めて示すところです。そして、この点は、裁判員裁判で死刑の適用可能性があるだけに、重要な問題提起となっています。
それにしても、強盗殺人行為についての「事実認定」と「量刑事情」ともに問題のあるこの事件に、なぜ、わずか2枚程度の1審判決書で「合理的な疑いを越える立証」と「死刑判定基準」が肯定されたのかという根本的な疑いを禁じ得ないものがあります。