佐伯千仭博士の死刑廃止論(2)
2010年 05月 15日
7.裁判も人間のすることだから「誤判」を完全に無くすることはできず、日本でもすでに4件の死刑再審・冤罪事件が発生している。もし死刑が執行されていたら、その後無罪となっても取り返しがつかないという点でも、死刑には刑罰としての適格性がないといわざるを得ない。
8.応報刑論は、因果応報が天地自然の道理で、犯罪を犯した者はそれに適しい刑罰を応報として受けねばならぬと主張する。しかし、有限であり、誤りをおかしやすい人間の営みである刑事裁判を天地自然の理法である応報にたとえるなどは思いあがりである。むしろ、われわれは、人間としての有限性を自覚し、常に誤りをおかしはせぬかとおそれる気持をもたねばならない。このように考えれば、死刑を支持する最後の基盤である応報刑思想も認め難いことになり、死刑を維持する思想的根底が崩れている。
9.今日では、すでに多くの国において死刑は廃止されており、とくに国連総会で採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(1989年)の死刑の廃止を目的とする「第2選択議定書」(1991年)を多くの国が批准しているのに、日本政府はいまだ後者の批准を拒み、国連規約人権委員会から「死刑廃止に向けた措置をとるよう」勧告を受けている。
その理由は、死刑に凶悪犯罪の抑止力があるというのだが、現実はその効果がすでに失われていることを示している。日本にはかつての律令時代に300年間も死刑廃止状態があったのであり、むしろ死刑廃止論が最近の人間的荒廃現象の克服と連動することを願うものである。
以上は、佐伯博士が後世に残された遺言ともいうべきもので、われわれはこれを真摯に受け止めるべきものと考えます。