難解な法律概念
2010年 05月 07日
裁判員法の功罪については、その見直しを含めて、また別途に考えなければなりませんが、ここでは、現実の問題として、法律の素人が「難解な法律用語」の理解に苦労するのではないかという点を、いくつかの例をあげて指摘しておきたいと思います。
裁判員が犯罪行為の「事実の認定」をするだけならば、一般市民の常識で対応することができるでしょうが、裁判員法は、「法令の適用」も裁判官とともに行うと定めていますので、法律の「専門用語」の理解を避けて通ることはできません。
たとえば、「違法」とか「共犯」とか「故意」とか「過失」といった言葉の意味は、ある程度理解できるでしょうが、「構成要件」とか「正犯」とか「錯誤」とか「心神喪失」といった言葉は、おそらく理解できないでしょう。法学部の学生でもなかなか難しいのです。
そこで、ある犯罪行為がどの罪に当たるかを判断する際に、裁判官は必要な限りで裁判員にこれらの法律用語の説明をしなければならず、そのための「指針」になるような文書(司法研究報告書)も公表されています。たとえば、「殺意」(殺人の故意)については「人が死ぬ危険性(可能性)が高い行為をそのような行為であると分かって行為した以上殺意が認められる」という基準が提示されています。
これは、法律用語では「未必の故意」と呼ばれるもので、学会でも論争問題となっているのですが、上のような基準では、重い傷害を与えた相手が死亡したときは、ほとんどが「傷害致死罪」(205条)ではなく「殺人罪」(199条)に当たることになってしまうおそれがあります。むしろ、「殺意」が否定され得るような場合を、これまでの判例などあげて例示するという方法で、裁判員に「合理的な疑いのない」判断を求めるべきものと思われます。

