刑法の過去と未来
2010年 04月 21日
「刑法」は、1907年(明治42年)に制定された古い法律ですが、戦前の「不敬罪」や「姦通罪」が戦後廃止されたことや、文言が口語体になった点などを除きますと、それほど大きな改正はなく、ほぼ安定していたのです。ところが、とくに2000年以降の最近の10年間に、大きな改正が顕著に現れるようになりました(立法活性化の時代)。
第1は、最近の電子情報社会化に対応するもので、コンピュータのパスワードの不正入力を等処罰する「不正アクセス禁止法」(1999年)のほか、不正なカードの所持やカード情報の提供等を処罰する「支払い用カード電磁的記録に関する罪」(2001年)などです。
第2は、国民の安全と不安感の除去を目的とするもので、ドライバーの携帯等を処罰する「ピッキング防止法」(2003年)や「広島県暴走族追放条例」(2002年)のほか、とくに交通関係では「危険運転致死傷罪」の新設(2001年)や道路交通法上の「救護義務違反罪」の刑の加重(2008年)などです。
第3は、とくに近年における凶悪・重大犯罪の実情に対処するために、刑法上の重要な多数の犯罪について、その「法定刑」を大幅に引き上げるという改正です(2004年)。
以上の「改正」は、まさに「犯罪化」と「重罰化」の方向にあることは明白ですが、それが時代環境と社会意識の変化(被害者の保護と市民生活の安全)に対応するものといわれている点に注目する必要があります。
しかし、とくに第2と第3のような「犯罪化」と「重罰化」は、刑務所の過剰収容をさらに悪化させるとともに、何よりも、刑法の伝統的な基本原理(自由と人権の保障、刑法の謙抑性と補充性、法益保護原則など)を掘り崩して行く危険があり、警戒が必要です。
ドイツでも同様な状況が見られますので、次回はハッセマー教授の所説を紹介します。