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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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上告棄却の決定

 平成14年(2003年)に発生した危険運転致傷罪等に関わる刑事裁判に、私自身も弁護人の1人として関与してきました。事案は、被告人が友人2人を後部座席に同乗させて高速道路を走行中に、先行する2人乗りのバイクを追い越す過程で、並走状態になった後、バイクが歩道に乗り上げて2人が重傷を負ったというものです。
 被告人は、追い越したのちに後方で音がしたとして関与を否認したのですが、検察官は後続車両の運転者の目撃証言を唯一の証拠として、業務上過失致傷罪ではなく、危険運転致傷罪で起訴しました。弁護人は、事故発生時の捜査がきわめてずさんで、警察が証拠となるバイクも処分してしまい、写真判定による鑑定意見にも対立があるほか、目撃証言に基づいてさえ、「著しい接近」も「通行を妨害する目的」も立証されていないとして全面的に争いました。
   しかし、第1審判決も控訴審判決も有罪判決を下し、弁護人が提出した詳細な上告趣意書に対して、最高裁判所は、以下のような形式的な決定で、上告を棄却したのです。
 「弁護人の上告趣意書は、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。よって、同法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文の通り決定する。平成22年3月10日最高裁第1小法廷」
 これは、最高裁が上告棄却決定をする際に用いる常套的な文言で、きわめて多くの被告・弁護人側からの上告が、このような形式で「門前払い」になっているのです。たしかに最高裁への上告は、憲法の違反、憲法の解釈、最高裁または高裁の判例違反に限られていますが、本件には憲法にかかわる論点(「構成要件の不明確性」)も含まれていますので、最高裁が今回、危険運転致死傷罪の成否と限界という重要な論点を全く回避してしまったのは、冷たい対応で、きわめて遺憾であるといわざるを得ません。
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  (びわ湖大津館のEnglish Gardenで、3月14日に撮った写真です)
上告棄却の決定_c0067324_16485563.jpg

by nakayama_kenichi | 2010-03-15 16:25