「大学の自治」は何処へ
2010年 02月 19日
しかし、その変質や堕落の原因をいわゆる「二分的思考」(白か黒か)に還元して説明するという方法論上の問題を別としましても、著者による「知性」の強調は、庶民の生活感覚から離れ、むしろエリート主義に傾くおそれがあるように感じました。「知性」は何よりも、憲法の保障する平和と人権に奉仕するものでなければならず、そこからインドや中国などとの平和共存の理念も生まれてくるはずで、それは単なる「知性の競争」ではないというべきでしょう。
マスメディアの堕落なども、国家権力のあり方との関係で論じられるべきもので、著者のいう「少数意見の尊重」という観点からこそ見直されるべきものと思われます。テレビで国策やマスコミに苦言を呈する解説者は歓迎されないという状態は、著者自身が経験されているところだと思います。
本書の中で一番気になりましたのは、著者が現在大学教授の地位にあるにもかかわらず、大学の人事権は教授会にあるとする「大学の自治」を公然と否定し、トップの学長が人事権をもつべきであると主張されている点です。これは、国立大学が「独立行政法人」化した後も、文部科学省の統制から何とか教授会の自治を守ろうとしている大学人の努力に水を差すものではないかと思われるのです。戦前の歴史を踏まえて、教育の国家統制の弊害をこそ強調すべきときではないでしょうか。