少数意見の尊重
2010年 02月 15日
実は、法務省の要綱案に終始反対したのは、弁護士会推薦の委員の3名だけで、それ以外の裁判所、検察庁、警察庁関係者および専門の刑事法学者委員は、時効の廃止と延長には全員が賛成し、遡及適用については、1人だけ(おそらく学者委員)が反対票を投じたものと思われます。勇気のある1票といえるでしょう。
ここで注意を要するのは、公訴時効期間を延長した平成16年の改正の際には、さかのぼって適用するという措置は見送られたのに、今回はこれが強引に通ってしまったという点です。しかし、そこには、憲法39条(遡及処罰の禁止)にかかわる原則問題が含まれていますので、本来ならばもっともっと慎重な論議がなされてしかるべきだったと思われます。
「公訴時効」の制度は、限られた捜査資源を適正かつ公正に配分するために認められてきたもので、被告人の利益や被害者・遺族の「感情論」とは別に議論されるべきはずのものです。時効を撤廃してしまえば、捜査機関は重大事件の捜査をいつまでも続けなければならないという不可能を強いられることになり、事件を区別すれば不公平が生じることは避けられません。また時効の撤廃が必ずしも被害者の利益になるとも限らないのです。かつて佐伯千仭先生は、ナチスの学者が時効を否認しようとしたことをあげて、日本に古くからあった時効制度の中に、日本人の刑法意識の淡白な性格が現れているといわれていたことを想起すべきでしょう。