小野博士「日本法理」原稿完了
2010年 02月 04日
その中で、注目すべき点は、小野博士の刑法思想にも時代的な変遷が見られたということで、なかんずく、昭和初期の時代には、明らかに大正デモクラシーの時代思潮の影響を思わせるリベラルな人権思想を表現した論文が存在したということです。「不当拘禁の問題」と「冤罪者に対する国家賠償責任について」がそれですが、すでに1月のブログで紹介しました。
問題は、敗戦後の小野博士の対応ですが、研究は続行されているものの、研究テーマは一転して英米の刑法および刑事訴訟法の紹介に移行し、「日本法理」への自己評価は影に隠れたように見えました。しかし、すでに「司法制度の観念形態」(昭和23年)の中には、新憲法によって天皇主権から国民主権への転換はあったけれども、国民の思想は一挙には革新されず、観念形態の変化が制度の現実にどれだけの変化を及ぼすかはまたおのずから別問題であるといわれていました。
そして、「倫理学としての刑法学」(昭和25年)になりますと、「道徳は各人の人格的実践における倫理の自覚形態であり、法(法律)は国家の政治的実践における倫理の自覚形態である」という論理が復活してきます。そして、国家的倫理の立場からは、無責任な個人主義は許されないといわれますと、かつての「日本法理」との連続性が浮かび上がってくるのです。
佐伯博士の「日本法理」との比較をも含めて、長い論文がようやく完成し、4月頃には「判例時報」誌に掲載される予定です。