不当拘禁の問題
2010年 01月 16日
この論文で、小野博士は、近時(昭和5年当時)労働運動ないし共産主義運動に関連する検挙において警察権が濫用され、不当拘禁、さては××(伏字)に近い暴行・陵虐の風評を聞くことは憤懣に堪えないところであるといわれ、警察署長による「違警罪即決例」と行政執行法による(公安を害する虞ある者に対する)「検束処分」の濫用をきびしく批判された後、とくに以下の3点を指摘されていました。
第1は、捜査機関が行う「取調べ」に関してですが、被疑者がその取調べに任意に出頭し、任意に供述するといわれる場合にも、それが果たして任意かどうかが問題であって、出頭の要求が事実上すでに大きな心理的強制である以上に、時として甚だ不当な精神的強制ないし物理的暴行さえ行われる取調べが何で任意であろうかと疑問を提起されています。
第2は、警察署内の「留置場」に関してですが、留置場が検束者を収容するほかに、監獄に「代用」され、少年や精神病者も収容されているのが現状であるとして、まずは留置場を根本的に改善し、さらに監獄法を改正して、留置場を監獄に代用することを断然廃止しなければならないと強調されています。
第3は、不当拘禁を行った責任者を厳重に検挙し、処罰することの必要性についてですか、実際にはほとんど処罰されていない(昭和2年にわずか1件)状態にあることは問題ではないかと指摘されています。
戦前の「違警罪即決例」や行政的な「検束」処分は、戦後廃止されましたが、密室での「取調べ」や「代用監獄」の問題は、その後80年を経た現在もまだ続いていることを忘れてはならないと思います。

