公訴時効の延長・廃止
2009年 08月 03日
公訴時効の制度の根拠としては、時の経過によって社会一般の処罰要求や社会の動揺が弱まって行くだけでなく、証拠も散逸して公正な裁判の実現も困難になるといった点があげられています。ところが、最近、とくに犯罪の被害者団体を中心に、被害者の処罰要求は時の経過によって消えるわけではなく、DNA鑑定で昔の事実を立証できるので、真犯人の「逃げ得」を許さないために、とくに殺人罪の公訴時効を撤廃すべきであるという要請運動が高まり、法務省当局に法改正を促す状況が生まれています。
そして現に、法務省は公訴時効の「見直し」に着手し、2009年3月に「中間報告」を作成して、見直しのための4つの具体案を提示し、最近に至って、殺人罪の公訴時効の廃止を含む時効期間延長案を固めたといわれています。今後は、これが法制審議会の審議を経て国会に上程されるということになりそうです。
しかし、そこには原則的な疑問があります。たしかに、被害者の処罰要求は時の経過によっても変らないともいえるでしょうが、時効制度は、社会一般の処罰要求と社会の変化に対応する国の政策として承認されてきたものであり、DNA鑑定だけで人を有罪とすることもできないのです。まして、冤罪犯人が一生訴追の危険を負うというのも酷でしょう。
それに、公訴時効は、2004年に期間の延長を認めたばかりなので、一挙に撤廃にまで突っ走るのは、あまりに感情的な対応であり、もっと慎重な検討が必要だと思われるのです。