無責任な臓器移植法改正
2009年 07月 15日
この時期におけるマスコミの対応にも異常なものがあり、朝日新聞の社説は、一方では、「参議院らしさを見たい」といって慎重審議を訴えながら、他方では、改正案の趣旨を繰り返し説明するにとどまり、A案成立後も、ほとんど無批判に同じような解説を繰り返すという無責任ぶりをあらわにしています。そこには、慎重審議を要望した「良識」はどこかに消え去ってしまったというほかありません。この決定的な時期に、まともな「世論調査」さえほとんどなされていないのも、怠慢以上の意図的な逃げの姿勢をうかがせるものがあります。
国会での法案の審議にも疑問があります。衆議院を通過したA案に対して、参議院では、脳死を人の死とする前提とその医療現場への波及効を避けるために、「脳死した者の身体」の定義を現行法の規定にもどすB案が提案されましたが、これが否決されたのです。つまりA案は「脳死は人の死」とする趣旨であることを確認したかに見えるのですが、それでもA案の提案者は、臓器移植の場面に限られるというのですから、その意味が不明といわざるをえません。
より根本的には、本人の意思と遺族の意思とに同じ効果を与える理由が依然として不明なままに、ムードに流された政策的な立法がまかり通ってしまったことの責任は重く、その後始末をめぐって混乱が起きることが危惧されます。