1回結審
2009年 06月 15日
この事件では、被告人は自白していて、裁判は1回で結審するものと思っていたところ、被告人は弁護人との接見で、精神病院に通っており、事件当日も薬を飲んでいて、物事がよく分からなかったというのです。検察官の請求証拠には、被告人の精神状態に関する証拠がなく、しかし開示を求めたら、被告人の言い分に近い供述調書や簡易鑑定の結果が出てきたので、弁護人も資料の蒐集に努め、結局、責任能力を全面的に争う方針を固めることになり、1回結審どころの話ではなくなったというのです。
著者によりますと、「正直、弁護側が被告人に有利な証拠を蒐集することは、苦労の連続で、捜査側との力の差は、驚くほどである。それなのに、国選事件の報酬は非常に低額である。それでも、弁護人がしっかり活動しなければ、責任に見合った処罰ができなくなる(究極的には、冤罪が発生する)おそれがあるから、弁護人は全力を尽くさなければならない」。
以上の指摘は、裁判員裁判の実施にとって、多くの示唆を与えています。検察はこれまで通り、被告人に有利な証拠を出したがらないので(全面開示の義務はなく、取調べの可視化もない)、有能な弁護人の熱心な弁護活動が不可欠なのですが、国選弁護を充実して行く態勢にはなお程遠く、弁護士の刑事弁護離れの現象が起きる恐れがあります。
むしろ、取調べの可視化(録音・録画)と証拠の全面開示を前提とした刑事裁判の構造改革が先決で、それを欠いた「迅速裁判」では、隠れた冤罪が増える心配があります。

