未完の刑法
2009年 05月 02日
私自身も、「ソビエト刑法」の研究を手がけた者として、改めて本書を読み、感慨を深くしました。社会主義刑法の最大の特色は、刑法の「階級性」を大胆に提起したことで、それは資本主義刑法の「階級的矛盾」を批判した点ではインパクトがありましたが、肝心の社会主義刑法が「階級性のない共産主義社会」に向けて「刑法の死滅」を展望できたかといえば、それこそ「未完」に終わったといわざるを得ません。
私の素朴で最大の疑問は、働く庶民の利益を代弁しこれに奉仕するはずの共産党などの勤労者政党が、なぜこの基本的な使命に反し、かえって一つの「特権的な集団」に成り果てたのかという点にあります。社会主義の体制は、働く庶民の利益を擁護するものであり、党や政府にはその可能性が与えられていたにもかかわらず、その信頼と期待を裏切った責任は限りなく重いというべきでしょう。

