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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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Lesser evil の世界

 最近、ある法律雑誌に掲載された元東大教授で国際法専攻の大沼保昭氏の論文(「社会における法の意義と害悪―国際法の認識と実践を通して考える」法律時報81巻4号72頁)を読む機会があり、基本的に共感するとともに、考えさせられました。
 そこでは、「戦争責任と戦後責任」や「在日韓国・朝鮮人問題」などが語られていますが、しかしそれらの問題を一面的に見ることは誤りで、たとえば第2次大戦で日本軍が一千万人以上のアジアの民を殺したという事実は決して消えないけれども、しかし戦後の日本が誤った過去を反省して平和主義を守り、世界有数の経済的繁栄と安全で信頼性の高い社会と文化を作り出し、貧しい途上国に大規模な援助と協力を行ってきたということは十分に誇ってよい事実であるといわれています(ただし、過去の反省と平和主義が揺らぎつつありますが)。
 これまで、人類は過ちから学び、絶えず揺り戻しを経験しながら、長期的には少しでもましな世界へと向かっていると信じて、小さな実践を積み重ねることが大切であり、その際には、変化がひとりでやってくるものではなく、現実を変えるのは、その現実をおかしいと感じ、それを冷静に分析し、それに基づいて実践する一人一人の取り組みであるといわれるのです。
 そして最後に、民主主義という「多数の専制」が働きやすい現代社会では、「最大多数の最大幸福」よりも、「少数者への最小抑圧」という価値理念こそが保持されるべきではないかと結ばれています。それは、法が現実を正当化する側面をもつことへの警鐘といってよいでしょう。
 
 
by nakayama_kenichi | 2009-03-28 20:42