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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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2010年 04月 22日 ( 1 )

ハッセマー教授の見解

 前回の日本の状況と比較して、ドイツ刑法の過去・現在・未来を論じたハッセマー(前フランクフルト大学)教授の見解の要旨を紹介しておきたいと思います。これは、2009年5月の日本刑法学会で講演されたものです。
 第1.過去 戦後のドイツ刑法は「非ナチ化」を意識的に自覚することなく推移したので、1962年草案はすでに時代遅れであり、実際の出発点はリベラルな「対案グループ」の提案を入れた1969年刑法典であった。
 第2.現在 現在の刑法は応報と贖罪の観念から脱却し、「予防」「非犯罪化」「実践的理性」の3点に集約される(憲法と人間の尊厳、再社会化の思想)。しかし、すでに「治安刑法」への傾斜が見られ、テロ、組織犯罪、麻薬犯罪、情報犯罪などの領域では、治安のパラダイムが自由のパラダイムの犠牲の上に成り立っており、「敵味方刑法」という発想が「法治国家」の原則を危うくしているのが現状である。
 第3.将来 治安のパラダイムが示す「危険社会」では、市民の安全性の欲求が危険のコントロールを国家に求めるという方向が見られ、不安の増大はマスメディアによって増幅され、「感覚で捉えられた犯罪」が憲法と民主主義を掘り崩すおそれがある。
 第4.選択肢 今後の予想としては、刑法を通じて治安を確立しようとする強力な欲求が「刑法の拡張」を要求し、それが実際にも実現されるであろうが、私は「敵に対する刑法」という選択肢には積極的に反対する。なぜならそれは憲法上の保障から一部の者を見放すという犠牲を払うことになるからである。唯一の選択肢は、人格性、保護、寛容という視点に基づいた刑法の展開を慎重ながらも断固とした決意でもって刑法の現代的な動向に随伴させることである。
   日本の状況よりも、歴史的な分析に筋が通っており、教授の識見に同感を覚え、心強く感じました。
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by nakayama_kenichi | 2010-04-22 07:05