最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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2009年 06月 15日 ( 1 )

1回結審

 「法学セミナー」7月号に、国選弁護修習中の司法修習生の「真実の多面性」という短い文章が掲載されているのが目にとまり、考えさせられました。
 この事件では、被告人は自白していて、裁判は1回で結審するものと思っていたところ、被告人は弁護人との接見で、精神病院に通っており、事件当日も薬を飲んでいて、物事がよく分からなかったというのです。検察官の請求証拠には、被告人の精神状態に関する証拠がなく、しかし開示を求めたら、被告人の言い分に近い供述調書や簡易鑑定の結果が出てきたので、弁護人も資料の蒐集に努め、結局、責任能力を全面的に争う方針を固めることになり、1回結審どころの話ではなくなったというのです。
 著者によりますと、「正直、弁護側が被告人に有利な証拠を蒐集することは、苦労の連続で、捜査側との力の差は、驚くほどである。それなのに、国選事件の報酬は非常に低額である。それでも、弁護人がしっかり活動しなければ、責任に見合った処罰ができなくなる(究極的には、冤罪が発生する)おそれがあるから、弁護人は全力を尽くさなければならない」。
 以上の指摘は、裁判員裁判の実施にとって、多くの示唆を与えています。検察はこれまで通り、被告人に有利な証拠を出したがらないので(全面開示の義務はなく、取調べの可視化もない)、有能な弁護人の熱心な弁護活動が不可欠なのですが、国選弁護を充実して行く態勢にはなお程遠く、弁護士の刑事弁護離れの現象が起きる恐れがあります。
 むしろ、取調べの可視化(録音・録画)と証拠の全面開示を前提とした刑事裁判の構造改革が先決で、それを欠いた「迅速裁判」では、隠れた冤罪が増える心配があります。
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by nakayama_kenichi | 2009-06-15 21:06