最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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2009年 06月 09日 ( 1 )

刑法の根底にあるもの

 最近の刑法学会で、西原春夫氏(早稲田大学名誉教授)が講演された際に、かつて若かりし頃のマルクス主義をめぐる私との論争について言及されました。
 私どもは、昭和初期の生まれの同世代で、「法律学の未来像」と題する座談会(藤木英雄、西原春夫、中山研一、田宮裕)の記録が残っています(昭和40年1月23日、「書斎の窓」131,132号所載)。しかし、その中には、このような論争は見当たりません。
 問題は、西原春夫著『刑法の根底にあるもの』(初版昭和54年、増補版平成15年)の中に、「マルクス主義」の基本思想に対する批判的考察が含まれていたことに由来します。当時私は、本書の書評を書いた記憶があるのですが、今回改めて増補版を読み直して見ました。
 西原さんは、本書で、刑法の根底にあるものとして、マルクス主義は下部構造が上部構造を規定するという側面をとりわけ強調して、法の階級性や法の死滅の理論を説くけれども、そのような側面があることを肯定しつつも、なお生産関係以外のものを刑法の根底におくためには、共通分母として、刑法の階級性とともに、超階級的な性格を加える必要があり、それが「人間の欲求」であると主張されたのです。
 しかし、マルクス主義は、その「人間の欲求」自体も、実際には歴史的な時代の生産関係の場から生み出されるもので超歴史的な抽象物ではないとするのです。そこに見解の相違がありますが、そのような現状の説明方法の論争よりも、むしろ大事なのは、憲法理念の下で、治安優先の国家主義的な刑法の乱用をいかに防止すべきかという点にあり、その点では、本書は基本的にリベラルでヒューマンな立場にあるものとして共感を覚えました。
 なお、私自身も、社会主義刑法研究の総括と反省をしていますので、興味のある方は、参照して下さい(京大法学部創立100周年記念論集2巻、1999年)。
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by nakayama_kenichi | 2009-06-09 21:15