最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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上官の違法命令

 佐伯博士による敗戦直後の論文に「戦争犯罪人裁判令と上官の違法命令」(法律文化1号5・6合併号、1946年)という文献があります。そこでは、戦前のわが国の軍隊においては、上官の命令は直ちに朕(天皇)の命令と心得よという勅諭の言葉が濫用され、いかに理不尽非道な命令でも部下は無条件に従わなければならないとされてきたのですが、しかし伝えられるような日本軍の「余りにも明瞭な非人道的虐待」行為については、部下は拒否すべきであり、責任を問われると書かれていました。
 しかし、その後、A級戦犯の裁判には関心が集まったものの、戦争裁判の対象とされている捕虜および非戦闘員に対する残虐行為に関する、いわゆるBC級戦犯の問題についてはあまり注目されることなく推移していました。私も、ようやく最近になって、2冊の本を読みました。
 その一つは、加藤鉄太郎『私は貝になりたい』(春秋社、1994年初版)で、そこでは10名位の中国人捕虜に対して、上官の少尉が部下に銃剣で捕虜の心臓を突けと命令し、実際に虐殺が行われた悲惨な体験が語られています。加藤氏は実際に死刑囚として拘束され、減刑されてからも、「戦争は人間を発狂させる」といい、本当に戦争を憎み、平和を愛するならば、自分が体験した戦争と犯した戦争犯罪を、国民の前に告白すべきであるといわれているのです。
 もう一つは、林博史『BC級戦犯裁判』(岩波文庫、2005年)ですが、そのなかでは、日本の政府や軍当局が、ポツダム宣言を受諾した直後から、関係文書の焼却などの犯罪隠蔽工作を内密に行ったこと、そして実際の戦犯裁判でも、死刑を含む重い責任は現場の末端管理職と将兵に押し付けられ、実質的な責任者である上級将校は罪を免れ、または減刑されるという不公平が現存していたことが資料的に確認されています。なお、この本では、上官の違法命令についても言及されており、命令に従ったというだけでは免責されていないが、実際に下級の兵士が死刑になった例はあまりなかったといわれています。
 日本の「戦後処理」はまだ決して終わっていないことを肝に銘じなければならないことを痛感しました。
 
 
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by nakayama_kenichi | 2008-02-27 10:29