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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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佐伯先生と宮内先生

 宮内裕先生は、京大法学教授であった1968年(昭和43年)に、留学先のドイツで49歳の若さで急逝された私の先生にあたる人です。その追悼文集(「樅の木」1968年)を見ていましたら、当時の佐伯先生による追憶文の中に、以下のような記述があったことを再発見しましたので、歴史的な事実として、語り伝えておきたいと思います。
 「宮内教授と私とのかかわり合いは、教授の学生時代に始まる。宮内氏を大変可愛がっていた立命館大学の竹田直平教授(現在甲南大学教授)が、素晴らしい学生がいるとご自慢で紹介されたのが始めてであった。宮内氏はいわゆる思想問題で松本高校を中退し、その頃立命館大学の法学部に入っていたのである。しかし、我々が特に親しくなったのは、敗戦後、氏が復員して訪ねてきてくれてからである。復員した氏は、立命館の法学部助手として刑事法と刑事学を研究することになっていたが、その頃、同じく復員してきた平場教授その他の2,3の若手と一緒に、ドイツ語の復習でもしようかということになって、パシュカーニスの「法の一般理論とマルクス主義」を私の私宅で読むことにした。この本は、私達が若い頃―於保・大森・中田の各教授もまだ助手であったし、亡くなった加古祐二郎氏は副手で、いずれもそのメンバーであった―恒藤教授を中心にして、ある年末の休みを期して―それは寒稽古と呼ばれていた―集中的に輪読討論したことがある。私には大変懐かしい本だが、周知のようにやや難解の部類に属する。ところが、宮内君等は、この書物をまるで海綿が水を吸うような早さで読了し吸収していったのである。私には、その流暢なドイツ語の発音がいまも耳に残っている・・・・・・」。
 そこには、宮内先生の面目躍如たる側面が見られますが、それにもまして、パシュカーニスの「法の一般理論とマルクス主義」という本が、すでに戦前から、そして敗戦後はより広く、法学者の間にも専門をこえて読まれていたという事実に驚かされるのです。この本は、私自身にとっても、なつかしい響きのある古典ですが、それ以後は一般にあまり読まれなくなったようです。この機会に、この古い本を探して見たくなりました。
by nakayama_kenichi | 2007-07-07 09:59