ヘーゲルの刑法思想
2006年 11月 05日
ところが、11月4日の刑法読書会では、最近のドイツの文献の紹介として、ヘーゲルを再評価する有力な動きがあり、そこでは、ヘーゲルの帰属論(行為を責任に帰する)の中に、古典的な帰属論を超えて、むしろ帰属を制限しまたは阻却する(帳消しにする)方向の主張があることが注目されているという報告がありました。ヘーゲルによれば、安定した社会では、刑罰を緩和するだけでなく、帰属そのものも断念されるというのです。
私は、この報告を聞いて、驚くとともに、興味をそそられました。それは、ヘーゲルが帰属の基準としてきた「合理性」と「正義」、そして「自由」もまた、処罰を積極的に根拠づけ、国家刑罰権の制約でなく、正当化に用いられるという点にこそヘーゲル批判の基本的な論点があるとされてきたからです(この点については、拙著『刑法総論』23頁以下を参照して下さい)。
ヘーゲルの刑法思想の中にのような「リベラル」な側面があるとしますと、それはベッカリーア(イタリア)、ヴォルテール(フランス)、ホンメル(ドイツ)、ベンサム(イギリス)などの、いわゆる啓蒙主義者たちの刑法思想との関連を示すもので、ヘーゲルがこれを帰属論として具体化した経緯やその後の影響などをもっと知りたいという欲求にかられるのです。ドイツにおける論議の展開とそのフォローを期待したいと思います。