罰金刑新設法案の評価
2006年 03月 28日
ところが、最近、松宮教授は、そのように運用された場合にも、とくに「ひったくり」行為などでは、起訴猶予に伴う負担よりも、略式手続で小額の罰金を払って済む方が、実質的にはむしろ軽いのではないかというコメントを付されており、このような改正まで「重罰化」として評価することには建前上も無理があると指摘されているのが注目されます。
たしかに、法定刑に罰金を加えることまで「重罰化」で説明することは、ある意味で滑稽にも見えますが、それは「国民の規範意識の弱体化」を極度に恐れる立法当局者の本音を表わしているように思われます。 罰金刑新設の対象を公務妨害罪と窃盗罪のみに限定し、横領罪や詐欺罪などには広げなかった点にも、罰金刑の新設が「寛刑化」の印象を与え、自由刑の科刑に影響しないようにという強い配慮が伺われるのです。
しかし、同時に、今回の改正がもたらす現実的な効果についても、慎重な対応が必要だと思われます。軽い窃盗である「ひったくり」に対する罰金の評価を別としても、公務妨害罪に対する罰金刑が従来の起訴猶予事案に適用されるという場合には、もはや「寛刑化」の余地に乏しいといわざるを得ないでしょう。かつての「財産刑小委員会」の審議の際に、罰金刑新設への消極論の理由として「起訴猶予事案が起訴されるおそれ」という点があげられていたことを想起しながら、この点の検討を続ける必要があると思っています。