最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

青春の砦

 これは、戦前の清水高等商船学校の航海科1期生だった小沢郁郎氏が、1979年に出版された書物(大谷直人・青春の砦、新潮社)の書名であるが、同時に、1982年に演劇 『青春の砦』(2幕)として上演されたという歴史的な産物である。因みに、この演劇のスタフは、原作:大谷直人、脚本・演出:瓜生正美、美術:松下朗、音楽:いずみたく、照明:横田元一郎、効果:山本泰敬、演出助手:後藤陽吉、舞台監督:細渕文雄、製作:土方与平、同:福島明夫、といった豪華な顔ぶれであった。
 私自身は、清水高等商船学校の航海科2期生であったので、著者とは1期あとに入校しているが、同様な体験をしているので、親近感が強い。その上に、偶然にも、著者がこの本や演劇のなかで中心的に語ろうとした第5分隊長の「吉野春生中尉」は、私自身が1年後に所属した第13分隊長その人であったという思い出が重なっている。
 著者は、すでに吉野中尉のリベラルな人間性に触れて、当時の海軍の鉄の規律のなかでの矛盾とささやかな抵抗にも触れているが、私ども2期生が入校した昭和19年4月以降の段階では、もはやこのような人間劇が展開される余地さえなかったように思われる。
 ただ、吉野中尉が第13分隊長の任期途中で急遽前線に駆り出され、結局は南方の海で戦死されたのは、海軍派と商船派の対立によるものではないかという噂を当時耳にしたことがあった。戦時中の軍隊教育の下では、またそこでは余計に、指導者の人間性と人柄が生徒に及ぼす影響が決定的であったように思われる。私もまた、短い期間ではあったが、吉野春生中尉の「稀有の人柄」に接した体験を心にあたためていたいと思う。なお、作中に出てくる「永友教授」というのは、おそらく国際法の「大友教授」のことであろう。私は、戦後しばらく親交があったが、いつの間にか音信が途絶えてしまった。
 
[PR]
by nakayama_kenichi | 2006-03-16 12:26