最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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共犯者の自白の信用性

 6月にこのブログで触れた刑事事件の判決について、まだこだわっています。それは、建造物損壊の実行正犯者の自白のうち、被告人が犯行現場にいたとする供述は信用性がないとしながらも、被告人が犯行の「共謀」の現場にいたとする供述は信用できるとして、共謀共同正犯の成立を認めたものです。ここでは、前者の点を問題にします。
 それが「虚偽の自白」だとされたのは、その内容に合理的な疑いが残るという理由からですが、問題はなぜ共犯者がそんな虚偽の自白をしたのかという点にあります。判決は、共犯者には虚偽の自白をする特別の動機はないとしつつ、捜査官の側にも虚偽の事実を述べてまで供述させる利点はなかったとしています。しかしそれでは、共犯者が虚偽の自白に至ったことに何の理由もないということになってしまいます。
 ここで重要なのは、虚偽の自白をしたとされる共犯者自身が、公判廷で、それは刑事さんから目撃証人がいると聞かされたのでそう思ったのですという供述を繰り返し述べているという事実であります。しかも、この点については、検察官の方から、それは思い違いではないかと執拗に追及されたにもかかわらず、最後まで変わらなかったのです。
 これは、捜査官による誘導によって虚偽の自白がなされたことを強く示唆するものであるはずですが、裁判所はそれでもなお、そのような危険な取調べをするに匹敵する利点が捜査官にあったとも考えられないとし、上述のような共犯者の公判供述もそれ自体あいまいで不合理な点を含んでいるとして、その供述が信用できないとしたのです。
 しかし、そうだとしますと、なぜ共犯者がそのような虚偽の自白をしたのかを説明できないという迷路に陥ることになり、そこに判決の最大のジレンマがあります。しかも判決は、その信用できない共犯者の自白のうち、後者の「共謀の自白」の方は信用できるというのです。この点は、また次の機会に触れます。
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by nakayama_kenichi | 2005-10-17 20:20