心神喪失者等医療観察法の矛盾
2005年 10月 13日
しかし、本法による入院患者を受け入れるべき「指定入院機関」の整備は遅々として進まず、現在2か所が完成しただけで、あと1か所のほかは見通しも立たないというピンチな状況下に置かれている。当初は、全国に30床規模の病棟を24箇所設置するという壮大な計画であっただけに、当局は、まずはその失敗の反省から出発しなければならないはずである。
ところが、厚生労働省は、法律改正の手続をとらずに、これを指定入院機関の設置基準の一部改正という方法で、規模も14床以下の病床からなる病棟の規格を設けることを検討しているとして、一般から意見を募集するという方針を打ち出した(9月30日)。これだけでは分かり難いが、そこには、既存の地方自治体病院の中に本法の適用対象となる特別な「病棟」を作るという「代用病院」の構想が予定されているといえよう。
しかし、そうなると、とくに「手厚い医療」を標榜した本法の指定医療機関たる病院とその他の一般の精神病院との間の施設基準(医師・看護師等の充足基準)の著しい差が、同じ自治体病院の病棟間にも波及することになり、その不均衡が一層顕在化することになるであろう。これを避けるためには、一般の精神医療の基準を引き上げるか、あるいは本法の医療基準を引き下げるかしかないが、現状では後者の方に流れるおそれの方が大きい。
むしろ、地域精神医療の充実の上に、本法を乗せるというのが正道であって、そのためにも巨大な特別指定医療機関(花巻病院のような)を作るという発想をこそ反省すべきだと思われる。