最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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another story

私は今、ある刑事事件の裁判記録をまとめる作業を少しづつ進めている。これは、神戸地裁、大阪高裁、最高裁に係属した事件であり、1審以来の有罪判決が最高裁で上告棄却となったものである(最高裁第3小法廷決定平成16年9月21日)。しかし、この事件が判例集にも掲載されないままに消えて行くのは淋しいと思い、どこかに記録しておきたいと考えるようになった。それに、この事件は、私自身も上告審段階から弁護人の一人として参加し、上告趣意書の執筆にも加わったという個人的な関係もある。
 これは、暴力団組員による建造物損壊事件で、3名が共謀共同正犯として起訴され、うち2名は自白して有罪を認めたが、あとひとりの被告人は最後まで争い、いわゆる「共犯者の自白」によって有罪とされたというものである。
 この事件には、「共謀共同正犯」の成立要件をめぐる判例の動向を刑法理論上どのように評価すべきかという周知の論争問題がからんでおり、私自身はかなり詳細な判例の分析を試みたのであるが、問題はむしろその前提として、共謀共同正犯の要件に当たると判断されるべき「事実的な前提」が果たして存在したのかという事実認定の判断の仕方にかかっている。
 「共犯者の自白」のうち、被告人が実行犯に現場で指示したという供述は信用性なしとして排除されたが、被告人が「共謀」の場に同席していたとする供述の方は信用性があるとした上で、同席していたとすれば会話の内容を聞いたはずだという理由で、被告人に「共謀共同正犯」が認められたのである。しかし、共犯者間の供述が矛盾し、また捜査段階と公判廷での供述が矛盾したときに、そのいずれを採用するのが合理的かは、「別の可能性」(another story)を十分に検討した上で、その合理的な疑いが払拭できない限り、有罪を認定することはできないというべきであろう。組の事件であるという事情もあってか、「別の可能性」があるのに有罪を推定するという傾向があるように思えてならないのである。
 なお、この事件については、2005年1月の「刑事判例研究会」で報告したことがある。
 
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by nakayama_kenichi | 2005-06-15 12:18