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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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法定刑の引き上げと量刑の動向

 大阪地裁判事の杉田宗久氏の論文「平成16年刑法改正と量刑実務の今後の動向について」(判タ1173号4頁以下)を一読した。それは、凶悪・重大犯罪について大幅な法定刑(法律が定める刑罰の枠)の引き上げを行った2004年の刑法一部改正が、裁判所における実際の量刑(具体的な刑期の決定)にどのような影響を及ぼすかという点について、詳細な分析を加えたもので、きわめて興味深いものがある。
 その内容の検討は別の機会に譲るとして、とりあえず以下の3点を指摘しておきたい。
 第1は、法定刑の上限の引き上げについて、刑事裁判官がほぼ一致して歓迎しているとされている点である。これは、裁判官の量刑選択の幅が広がるという理由によるが、一律に法定刑の上限が引き上げられても、量刑相場は守られるといってよいのかという問題がある。
 第2は、法定刑の下限の引き上げについて、強姦はともかく、殺人についてはその理由に乏しいことが明言されている点である。これは、立法趣旨が国民の正義感からのメッセージに由来するもので、量刑実務の感覚とは合わないことを示している。
 第3は、強盗致傷罪の下限が引き下げられたことが、実務上の長年の懸案を解決するものとして歓迎されている点である。しかし、これは最初の立法提案にはなかった別の附帯決議によるものであり、国民の規範意識へのメッセージ性とは逆方向のものである。
 裁判所や裁判官が、実務上の量刑相場を維持するという心意気を期待したいが、今回の立法者の改正趣旨が検察官の求刑を通じて裁判所の実務にも影響してくるおそれは十分にあることを予想しておかなければならないであろう。
by nakayama_kenichi | 2005-04-29 09:53