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最近大学を離れ、論考を公表する機会が少なくなってきました。論文として公表する以外の資料や感想文などを公開する場を持ちたいと考え、このブログを開設しました。


by nakayama_kenichi
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死刑と向き合う裁判員のために(2)

 4.裁判員の心理と死刑 2009年の内閣府による世論調査では、存置論(85.6%)の論拠として、「遺族の気持がおさまらない」「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」が多く、一方、廃止論(5.7%)の論拠としては、「生かしておいて償いをさせる」「誤判の場合に取り返しがつかない」「国家であっても人を殺すことはゆるされない」が多かったとし、また市民の死刑支持に影響する要因としては、繰り返される犯罪報道と死刑に対する知識不足が重要であると指摘されています。そして実際に、某私立大學法学部1年生約500人に対して、ある程度の予備知識を与えた上で行った調査では、死刑賛成者の比率がかなり低くなっているほか(60%)、「誤判の場合に取り返しがつかない」という項目が死刑反対群だけでなく賛成群にも共通に支持されていることが分かったといわれています。これは、冤罪問題の重要性を示唆しているように思われます。
 5.誤判と死刑 刑法の専門家の中にも、「誤判の場合に取り返しがつかない」という死刑反対の論拠は疑問であるとし、誤判の可能性が全くないような場合、たとえば無差別大量殺人が多衆が目撃する中で行われ、犯人が現行犯逮捕されたような場合には、死刑を認めざるを得ないのではないかという存置論が紹介されています。しかし、これに対しては、たとえそのような一見明白な殺人行為の場合であっても、誤判のおそれが全くないとはいえず、たとえば裁判の中で、犯人が精神異常によって責任能力が疑われる可能性も否定できない以上、最初から誤判の可能性が全くない事例があるという問題の立て方が間違っていると答えられています。
 たしかに、誤判と冤罪の数は実際には少ないのですが、これを「やむを得ない例外」として認めのではなく、むしろ逆に、未来永劫にわたって誤判が絶対に存在しないという証明ができない以上、死刑を制度として存置することは正しくないといわれるのです。(続)
by nakayama_kenichi | 2011-04-21 13:20