死刑と向き合う裁判員のために(1)
2011年 04月 19日
1.本書の問題意識 本書は、新しい裁判員裁判で死刑事件が扱われた場合に、裁判員となり得る誰もが当面すべき死刑の問題について、少なくともこれだけは知っておいてほしいことをまとめたもので、その立場は、死刑はできるだけ避け、できれば廃止したいという方向で一貫しています。したがって、多くの死刑存置論者にとっては、反論もあり得ることが十分に予定されています。むしろ日本では、今こそ死刑の論議を起すことが求められているのです。
2.国民の健全な社会常識 裁判員裁判は、これまでの職業裁判官による専門的な法律的判断の中に一般市民にも理解可能な「市民感覚」を反映させようとするものですが、事実の認定はともかく、法定の刑罰のうち「死刑」を適用すべきかという問題に当面した場合には、世論調査における圧倒的な死刑存置論が背景となって、むしろ死刑判決が出やすいのではないかと指摘されています。現に、最近、少年にも死刑判決が下されました。しかし、少なくとも、死刑には全員一致の評決を必要とすべきではないでしょうか(アメリカの陪審のように)。
3.死刑に関する世論 死刑に関する世論調査では、圧倒的に存置論が多いのですが、質問の方法に問題があるほか、賛否の判断に必要な知識が不足しているのに無自覚であることにも問題があるので、まずは死刑をめぐる問題(制度とその運用の実態)についての情報公開とその知識の普及が必要であるといわれています。そして、正確な知識を前提とすれば、賛否の結論も変わり得ることが示されています。当局による死刑に関する情報の秘匿が市民の関心の低さにも影響しているように思われるのです。(続)