不能犯
2010年 05月 10日
「不能犯」とは、刑法上の用語ですが、現行の刑法には規定がありません。しかし、刑法のどの本にも、「未遂犯」のところで説明がしてあります。
「丑の時(刻)参り」とは、行為者が他人を呪い殺してやろうという意思で、毎夜「丑の時(刻)」に神社に参り、相手と見立てた藁人形に5寸釘を打ち続けるという行為をいいますが、相手が死ななくても、「殺人未遂」となるのかという形で問題になるのです。これは、自然法則を無視した迷信的方法によるもので、「迷信犯」といわれ、未遂犯も成立せず、処罰されないという点では、結論の一致が見られます。
ところが、殺人の故意で拳銃を撃ったが、実弾の装填を忘れていたため相手が死ななかったとき、万引きの目的で他人の懐に手を入れたが、相手が懐中無一物だったために何も取れなかったときなどには、殺人や窃盗の不能犯ではなく、殺人または窃盗の未遂犯が成立するものと一般に認められており、最近でも、小刀で腹部を突いたが鞘がついたままであったという場合にも、不能犯ではないとした判例が出ています(静岡地裁平成19年8月6日判決)。しかし、古い判例には、殺人の意思で硫黄の粉末を服用させた事例で、殺人の方法としては「絶対不能」であるとして、殺人未遂を否定したものもあったのです(大審院大正6年9月10日判決)。
刑法の学説は、意見が分かれているのですが、裁判員の「常識」では、どうなるのでしょうか。殺人や窃盗の意思(故意)はありますが、結果は発生するはずがないという場合に、どこまで不能犯として処罰しないことにするのかという興味のある問題です。その理由を含めて、一度考えて見て下さい。